コトバ探求

毎日使う日本語が、あなたと誰かを繋いでる。 ほんのちょっとだけ丁寧に、言葉を選んで話しましょ?

「バズる」と「ブーム」はどう違うの?

バズるという言葉が親しまれるようになって久しいですね。

バズるとは、あるコンテンツにSNS上の人気・注目が殺到する状態を指す新語です。

 

「流行」という言葉もそうですが、「メガヒット」「ブーム」「トレンド」など、これまでも流行を意味する多様な言葉が生まれてきました。

 

それぞれの言葉の語源を紐解いてみれば、それぞれの時代の流行観の違いが見えてくるかもしれません。

 

 

バズるとブームは同じ語源!?

新語ゆえ有名な話ですが、まずは「バズる」の語源を紹介しておきます。

「バズる」は虫の羽音を表す「buzz」を日本語に取り入れ動詞化のために「る」をつけたものです。

 

ただしbuzzそのものが新語というわけではありません。

機械の唸る音にも用いられる他、噂話が広がるさまにも用いられます。また人間の雑踏がガヤガヤとうるさい様子にも「buzz」が用いられるため、現代SNSにおける用法が本当に「虫の羽音」を由来としているとも言い切れません。

単に人が殺到して集まっている様子を、虫の羽音を由来とした「buzz(人が群がる音、またその様子)」として表現したとも言えます。

 

これと似たような語源を持つのが「ブーム」です。

「ブーム」は英語で「boom」と綴りますが、元は「ハチがブンブンと音を立てる」という意味で用いられていた動詞です。これが転じて「大きな音を立てること」へと変化し、たとえば爆発音などにつながって「bomb(爆弾)」などに派生します。その末、「爆発的・急激に商業的な注目を集める現象」に対しても「boom」という表現が用いられるようになりました。

しかし「ブーム」の語源はもう一つの定説があります。全ての帆を開いて全速力で船を進めることを「ブーミング」といいます。こちらは帆を張るための木材を意味する「boom」から派生した言葉で、「ビジネスが成功して時流に乗って拡大するさま」を表していると解釈できます。

両方がそれなりに信じられるため、どちらが本当の語源か特定することはできません。しかし有力な候補の一つが「バズる」と同じであるのは興味深いことですね。

 

トレンドは「転がる」

流行を表す表現として、特にファッション業界では「トレンド」という言葉が親しまれています。「この春のトレンド」といった表現を耳にしたことがありませんか?

他にも株式や為替取引で値上がりや値下がりの一方的な変動が続くことも「トレンド」と呼ばれています。この記事を書いている2024年には日経平均の株高と円安で大騒ぎでしたが、きっとその界隈では「上昇トレンド」という言葉が使われているのでしょう。

ちなみに古くは「トレンディドラマ」というものがありました。平成元年前後のバブル期のドラマ作品の総称として用いられます。若者たちの最新の流行や風俗をとらえてドラマとしていたことから始まった表現なのでしょう。

 

これらで用いられている「トレンド」は、「転がる」を意味する「trendan」ひいては「車輪」を意味する「trundilaz」を語源としています。斜面を転がり落ちるように、特定の方向に人々の趣味性向が動くことを「流行」とした表現ということになります。

 

そもそも「流行」「流行る」は?

さて、日本語の話もしておきましょう。

「流行」は書いて字のごとく「流れ行くこと」を表しています。日本の仏教思想にありがちな有為転変(万物が変わりゆくこと)を表していると理解しがちですが、実際のニュアンスは違います。

「川のように人々の間に行き渡ること」を由来としていて、「波及する」とか「普及する」というニュアンスの方が語源には適切なものです。

 

一方「流行る」という表現ですが、江戸時代中期以前は「逸る」とか「はやる」と表記されていた別の言葉です。

こちらは「気が逸る」という表現にあるように、「対象に注意がいってしまって行動してしまうこと」を由来としています。これが転じて「時流に乗ること」も意味するようになり、結果として「流行に乗ること」とみなされて「流行る」と表記するようになりました。

 

微妙に違う流行表現

それぞれの表現を見渡してみると、微妙にその由来と表現したい流行の姿が違うことがわかります。

  • 流行:人々にその情報や習慣が広く行き渡り、生活習俗に取り入れられること
  • はやる:情報や習慣に注目が集まり、人々がそれに沿った行動をとること
  • トレンド:物事が何らかの方向に動き始め、傾向が深化すること
  • バズる:コンテンツに人が殺到し、雑踏のような喧騒状態になること
  • ブーム①説:特定の情報や習慣が爆発的・急激に人気を集めること
  • ブーム②説:特定の情報や習慣を扱うビジネスが快速で成長するさま

この微妙なニュアンスの違いは、表現の幅を大いに広げてくれそうですね。

 

わたしの個人的な見解ではありますが、それぞれ動詞を添える時にも適切な表現が変わりそうです。

  • 流行を取り入れる・流行に逆らう(「流行に乗る」は違和感)
  • 流行りに乗る・流行りに慎重な(時流に従うの意味があるのでこちらはOKな感じ)
  • トレンドを追いかける・トレンドに乗り遅れる(手をつけられない感じがいい)
  • バズりに加わる・バズりを見逃す(群集に入ったり騒ぎを見たりするイメージ)

ブームは商業的な側面が強いので、受動的な市民側のわたしには縁遠い言葉のように思います。全部わたしの勝手な見解ですけどね。

 

まとめ

今日は流行を表現する様々な表現の語源・由来を調べてみました。虫の羽音を由来としたり、人々に行き渡ることを由来としていたり、単に転がることを由来としていたり、表現の数だけその由来も様々です。

それぞれの由来を知ると、自分なりに使い方を工夫しつつ、流行の姿や本質を見分けようとする態度につながるように感じました。これからも世界を楽しむために、コトバ探求を続けていきましょう。