コトバ探求

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憶測と推測の違いを予測しよう

いいですか、みなさん。憶測でものを言ってはいけません。

ですから「これは憶測に過ぎないのですが……」という枕が使われます。

 

もちろん推測に基づいて意思決定をするのも危険です。

ですから「こちらは推測にはなりますが……」と断ります。

 

憶測と推測の違いってなんですか?

 

先に結論をお教えしておきましょう。

憶測は「いい加減な推測、あて推量」の意味で、根拠がない場合に用います。

推測は「手元にある情報から推し測ること」の意味で、データがある場合に用います。

 

……それなら推測って「予測」と何が違うんですか?

 

 

憶測の成り立ち

「憶測」の「憶」の字は「記憶」でよく見る文字です。「記憶」の用法では「思いだすこと、覚えること、忘れないこと」の意味で用いられていますが、「憶測」では異なる用法で用いられています。

「憶」には「おしはかる」の意味があり、「憶測」での用法はこちらに該当します。

 

一方で「測」にも「ものの長さや重さを測る」以外に「おしはかる」の意味があり、「憶測」は同じ意味の漢字を組み合わせたことで成立する熟語といえます。

常用漢字表の都合で表記が一時変更になった

しかし実は「憶測」の正式な表記は「臆測」でした。と言って「憶測」の表記が間違っているわけではありません。

というのもこの表記変更は、ある時期、常用漢字表に「臆」の字が加えられていなかったことで、代用表記として「憶測」が定着したことによります。現在の常用漢字には「臆」が含まれているため、「臆測」の表記も認められるようになりました。

憶測の成り立ちは臆測にあり

したがって憶測の成り立ちを見る際には「臆測」の成り立ちを辿るべきでしょう。

「臆」の字は、「おしはかる」の意味はもちろんですが、他にも「臆する(おくする)」「臆病(おくびょう)」で用いられています。

「臆病」は「ちょっとした物事に恐れをなして行動できない態度」という意味でした。これを言い換えればちょっとした物事に「根拠の不明瞭な不安・恐怖」を抱いていることを指しており、「臆測」の用法と重なる部分が現れますね。

 

つまり「臆測」は「臆病」と同じように、直接的な根拠がなかったり、逆に不必要な思い込みを含めて「おしはかる」ことを指しているのです。

憶測で行動を決めることは、臆病から行動に移せないことと同じほどの判断ミスを含むリスクがあります。根拠が薄弱で信頼性に欠けることが自分自身でもわかっていて、責任が取れない場合には「憶測ですが」との表現を補うのが妥当でしょう。

 

推測の成り立ち

推測は読んで字のごとく、「推し測る」という意味です。

もちろん「推」にも「おしはかる」の意味があるので、同じ意味を重ねた熟語ということになります。

「推」を使った類語たち

こちらも他の熟語から意味を浮き彫りにしたいのですが、「推」についてはそうもいきません。というのも、意味の近い幾つもの言葉で頻繁に利用されているからです。

  • 推測:手元に集めた情報から推し測ること
  • 推理:考えの筋道を辿ってまだわかっていない物事を推し測ること
  • 推定:推しはかって定めること
  • 推量:物事の事情や人の感情を推しはかること

しかしこれらとの区別を通じて、「推測」の意味を限定することはできます。

たとえば「推理」には論理的な考え方の筋道が必要不可欠です。その一方で「推測」ではそうした論理の段階を踏む必要はありません。

あるいは「推定」では推測の末に仮説を定める必要があります(推定年俸など)。一方で「推測」では2つや3つの可能性が残されていても問題はありません。

そして推量では人間の感情のような具体的に定まらない対象を推しはかることができますが、推測では手元に断片的な証拠やデータが揃っている必要があるため、どちらかといえば客観的な対象を扱う際に用いる言葉になります(もちろん手紙の言葉や行動記録から、対象人物の思惑や次の行動を「推測」することはできます)。

より厳密な推測の使い分け

以上の補足を加えれば、「推測」の意味範囲はより厳密に定まりそうです。

推測とは、

  1. 手元にある資料やデータなどの情報から推しはかることで、そのうち(推測の原義)
  2. 論理的な筋道を通った数段階の展開的な推測を行なっておらず(推理の除外)
  3. 推測の結果として単一の仮説を定めていない(推定の除外)
  4. 人間の感情や事情、動機のような不定的なものを目標としないもの(推量の除外)

と考えると、使い分けを意識することができそうです。

臆測と推測の使い分け

「臆測」との使い分けに焦点を絞れば、やはり「手元に参照できる情報があるか否か」が重要になります。

 

手元になんの信頼できる情報もないときには「臆測」。

手元に判断材料となる情報があるときには「推測」。

 

これで大きな問題が一つ片付きました。

 

予測との違い

残されたのは「予測」です。

辞書的にいえば、こちらも「なんらかの根拠から将来の出来事や有り様を推しはかること」であり、ほとんど意味としては「推測」と同じ意味のように思われます。

統計データなどの将来値を前もって示すとき

しかし「推測」が使えず「予測」だけが使える場面があります。

たとえば「20年後の日本の人口の予測」と言うことはできますが、「20年後の日本の人口の推測」と言うことはできません。この場合に使えるのは「予測」か「推計」になるでしょう。

つまり特定の統計データなどについて、さまざまな条件を考慮して将来の値を前もって示すとき、「予測」を使うことが推奨されます。

予測と推定も似ている

したがって予測と推定と推測の三者は非常に近い関係にあります。

要素を分解すると次の通りです。

  1. 手元にデータがある
  2. 単一の仮説を定める
  3. 現在または過去の事実を目標としている
  4. 未来の事実を目標としている

→1・2・4を組み合わせると「予測」

→1・3を組み合わせると「推測」

→1・2・3を組み合わせると「推定」

どうやらこのような関係になっていると考えられます。

 

まとめ

今日は臆測と推測と予測の違いを調べてみました。

それぞれ非常に似た表現でしたが、微細なニュアンスの違いがあるようです。

  • 臆測:根拠がないまま当てずっぽうで推しはかること
  • 推測:手元の情報から推しはかること
  • 予測:手元の情報から将来に関する特定の仮説・数値・状況などを推しはかること

この調査のついでに特に推理や推定との区別も整理できたので、これからは状況に応じてしっかりと使い分けることができそうです。