「はい、では始めますね。本日のアジェンダですが……」
ごめんなさい、ずっとなんとなく使ってました。もちろん「議題」という意味は知っています。
でもほとんどの言葉がそうですけど、本当に言葉の意味や成り立ちを知って「使い分け」していたわけではないんです。
今日はこのブログのコンセプト通り、少しだけ丁寧に言葉を選んで話せるように、アジェンダという言葉について調べてみます。
とはいえ今日も結論から。
アジェンダは「取り組むべきもの」を語源とした言葉です。
「議題」以外のものでも「行動計画」や「取り組むべき課題」といったニュアンスで使えます。
一方「議題」は「話し合う題目」を直接意味するので、やはり会議には最適な表現です。
より詳しくこの言葉のことを知ってみましょう。
アジェンダの成り立ち
アジェンダはラテン語由来の言葉で、「ago + endus」で構成されます。
agoはそれだけだと誤解してしまいますが、actと同源と聞けば頷けます。
つまり「行動する」「取り組む」など、一般的な動作を指しています。
endusともなると全く聞き慣れません。
ラテン語の動形容詞活用のためのいわば活用語尾のようなものです。
ラテン語には中性・男性・女性の別があるためわずかに表現は異なりますが、英語にはいくつか同種の語源を持つ表現があります。
- legend(伝説)= lego(読まれる)+ enda(べきもの)
- memorandum(メモ)= memoro(思い出される)+ andum(べきもの)
- dividend(配当)= divido(分けられる)+ endum(べきもの)
いずれも「〜べきもの」という意味が追加されていますね。
つまりagendaも同じように
agenda = ago(される)+ endus(べきもの)
として構成されています。
つまり「本日のアジェンダは次の通りです」を正確に置き換えると、
「本日の取り組むべき課題は次の通りです」となるわけですね。
つまり議題の方が具体的で正確です
慣れないラテン語の由来まで紐解いて「アジェンダ」の意味を特定してみました。
でもおかしな話ですね。
どうしてわざわざ「議題」ではなく「アジェンダ」と言っているんでしょうか。
というのも、アジェンダには「話し合う」という方法の限定が入っていません。
もしその会議で「話し合う」以外の解決をとることがあるなら、「アジェンダ」呼びも納得です。
しかし方針を決めるための「話し合い(=議)」にとどまるなら、むしろ「議題」の方が正確な表現になります。
完璧に使い分けて見せます
つまり語義に正確な態度を取るなら、次のようなパターン分けができそうです。
- 会議を含み、対処すべき課題を掲示するとき → アジェンダでよい
- ただし達成目標の形で示す場合は誤用。目標やゴールと表現
- 話し合い以外の解決過程を含まない場合はより正確な表現として→議題
- ただし「会議の」など意味を補うなら→アジェンダでよい
- 話し合いを通じて方針を模索し決定をおこなうとき → 議題
- アジェンダでも良い。ただし意味の範囲が広く非限定的
- ただし「会議の」など意味を補うなら→アジェンダでよい
- すでに素案があり採決を取る場合はより限定的に→議案など
- アジェンダでも良い。ただし意味の範囲が広く非限定的
英語のagendaも多くの場面で「議事日程」や「議題」を指す語として使われていますが、それと同時に「課題」や「行動計画」の意味でも利用されています。より限定的な意味を持つ言葉が日本語にあるなら、そちらを使った方が混乱は生じにくそうです。
特に「本日の会議のアジェンダ」と言葉を長くするくらいなら、「本日の議題は」と言ってしまった方が通りも良さそうですね(もちろん社内語としてアジェンダ利用している場合は除きます)。
アジェンダという表現が持つ魅力
アジェンダと議題の使い分けがよくわかりました。
今回調べていて一番気になった用例は「agenda for discussion」という英文の用例です。
この表現が通るなら、アジェンダそのものにはやはり「話し合い」の要素は含まれていません。むしろ「予定」や「計画」「題目」「課題」の方にアクセントのある言葉ととれます。
つまり「アジェンダ」は直接に「議題」を指し示す概念ではないかもしれません。
私たちにとっての「議題」と、英語話者にとっての「agenda」の間には、ほんとうに繊細な感覚の違いが含まれているかもしれないのです。
勝手な推測ですが、そこにあるのは「会議」にまつわる認識の違いかもしれないと思いました。
というのも、日本の会議はときに課題解決を目的としていないからです。日本の会議は合意形成のためにあるとはよく聞く言葉ですし、そういう経験はみなさんにも何度もあることでしょう。
「議題」には「話し合う題目」という意味こそありますが、「取り組むべきもの」という要素が欠けています。話し合うテーマを掲げてはいますが、解決を追求する態度は「議題」の語からは抜け落ちているのです。
一方、理想的なビジネス会議が問題解決のためにあるのだとすれば、そもそも「議題」とは「アジェンダ」そのものです。なにせ「話し合い」こそが解決手段となるからこそ、会議が召集されているのですから。
そうしてみると「議題」から「アジェンダ」への表現変化の背景には、日本の「会議」の変化を感じ取ったビジネスパーソンたちの鋭敏な感覚が反映されているのかもしれません。
まとめ
「アジェンダ」は「取り組むべきもの」を原義とする言葉です。会議の場面以外でも「行動計画」などの意味で使うことができるので、「議題」と使い分けることもできます。なお、まさに「議題」の意味で使いたい場合、可能なら「会議のアジェンダ」などと意味を補って利用することを推奨します。
もちろんこうした解釈は原義に照らしたものに過ぎません。最後になりますが、社内語の規則を守るのが最もよいことは強調しておきますね。