お久しぶりです。
久しぶりに文章を校正する機会に恵まれまして、二つほど新たに勉強したことをまとめておこうと思います。
今日のテーマは「形容詞の終止形+『です』」という表現です。
「楽しいです」「美味しいです」「大きいです」…いろいろなところで耳にしたり、目にしたりする表現です。しかし、どうにもこの表現、不恰好な気がしませんか?
そう思わないという方もいるかもしれないので、最初に結論を述べておきます。
この表現は、本来文法的には間違いなのですが、あまりに多用されたため昭和中期に承認された表現です。そのため現在では、この表現を文法的に正しい表現として取り扱うこともあります。
いったい何が間違いなのか、整理してみましょう。
そもそも「です」っていったいどういう単語なのでしょうか?
丁寧語として頻繁に利用されるため忘れがちですが、そこから敬意を差し引けば、答えはすぐに見えてきます。
「です・ます調」から敬意を差し引けば「だ・である調」になりますね。
つまり、「です」は「だ」の丁寧な表現なのです。
このことを頭に入れておけば、「形容詞の終止形+『です』」がいかに奇妙な表現なのかわかるはずです。
楽しいです = 楽しいだ
美味しいです = 美味しいだ
大きいです = 大きいだ
何かどこかの地方の方言なのかと首をかしげたくなる表現ではありませんか?
「形容詞の終止形+『です』」の表現は、こんな奇妙なことをやっているのと変わりない表現なのです。
しかしよく考えてみれば、「だ」の活用次第では使える場面があることに気づきます。
「だ」の未然形「だろ」(+う)を使ってみましょう。
(きっと)楽しいだろう
(きっと)美味しいだろう
(きっと)大きいだろう
ほら、先ほどの違和感はなくなってしまいました。
このことから、「です」の未然形「でしょ」(+う)の形では、形容詞の終止形との接続が認められることがあります。
(きっと)楽しいでしょう
(きっと)美味しいでしょう
(きっと)大きいでしょう
とはいえ、これもやはり認められているだけと考えるべきでしょう。なぜなら、本来は次の表現が存在しているからです。
楽しかろう = 楽しうございましょう
美味しかろう = 美味しうございましょう
大きかろう = 大きうございましょう
え? 「〜うございます」なんて京都の方しか使わない?
よく発言を聞いてみてください。黒柳徹子さんあたりはこの表現を使っていらっしゃいます。どうやら、ご高齢の上品な方々がしばしばこの表現を利用しているようです。
でも、現代の若者が使う表現としては、こちらもやはり不格好ですよね。
何か別の方法で対処する必要がありそうです。
まず口語の場合ですが、これは許容してしまいましょう。
もうずいぶん長い間、「楽しいです」などの表現は許容されてきました。国のレベルで承認されたのも戦後すぐと聞きます。もう50年以上も認められてしまったのですから、ほかの人がそれを口にするぶんには、おおらかに許してあげましょう。
それでも気になるなら、自分が話すときには「の」を補いましょう。
「歌うのは楽しいです」から「歌うのは楽しいの(もの)です」に。
「味噌汁は美味しいです」から「味噌汁は美味しいの(もの)です」に。
「観覧車は大きいです」から「観覧車は大きいの(もの)です」に。
しかし、この方法には条件があります。「の」は「もの」を代用する言葉として補っています。そのため一般的な性質を示すのには使えますが、具体的な一つのものに対して使うことができません。
「この味噌汁は美味しいのです」という文章には、やはり違和感が伴われますよね。「ここの味噌汁は美味しいのです」ならそこまで違和感はありません。「今日の味噌汁は美味しいのです」も違和感が残ります。つまり、この方法は部分的な対策に止まります。
他にも、いくつかのいい方法があります。
一つ目には、文章の順番を入れ替える方法があります。
「歌うのは楽しいです」から「楽しく歌いました」などに変えましょう。
「この味噌汁は美味しいです」から「美味しい味噌汁です」に変えましょう。
「あの観覧車は大きいです」から「大きい観覧車です」に変えましょう。
でも、これでは感動の中心が変わってしまっていますよね? 「楽しい」とか「美味しい」とか「大きい」とか、そちらを伝えたいのに、「歌ったこと」や「味噌汁」、「観覧車」の方が強調されてしまいます。
これを避けるためには、二つ目の方法を使う必要があります。
二つ目には、形容詞を名詞で言い換える方法があります。
「楽しいです」なら「愉快です」に変えましょう。
「美味しいです」なら「絶品です」とか「〜な味です」に変えましょう。
「大きいです」なら「巨大です」とか「〜ほどの大きさです」に変えましょう。
少しだけ頭を捻らないとうまく言い換えられませんが、意味を変えずに言い換えるためには、これが一番よい方法と言えます。
それぞれの具体的な場面を見てみれば、ほかの方法もあるかもしれません。
とりあえず、ここで紹介するのは一般的に使える方法ということで。
「形容詞の終止形+『です』」が不恰好な話、お分りいただけましたか?