コトバ探求

毎日使う日本語が、あなたと誰かを繋いでる。 ほんのちょっとだけ丁寧に、言葉を選んで話しましょ?

大迫半端ないって! の「って」って何?

お久しぶりです。ちゃんと生きてますよ。

 

それどころか、日本語のお仕事が本業になりまして、今は校正をしています。つくづく日本語に縁があるものですね。

 

さて、今日Yahoo!知恵袋をぶらぶらしていたら、日本語を勉強中の外国人の方からの質問で、次のようなものがありました。

 

大迫半端ないって! の「って」ってなんですか?

 

……なんでしょうね、これ。

 

日本人でもぱっと答えることはできません。でも、「大迫半端ない!」とだけ言うよりは、よほど「大迫半端ないって!」と言った方が感情がこもっている気がします。

 

というわけで調べてみました。

(知恵袋の回答者登録はしていないもので、回答はしていないんですけどね)

 

この「って」は、終助詞の「って」です。

 

 

終助詞の「って」の用法をコトバンクさんから引用します。

 

自分の気持ちを主張する意を表す。「そんなこと知ってるって」「わかってるよ、もう言うなって」→たって[接助]
[補説]「って」は打ち解けた対話にだけ用いられる。の語源については、係助詞「とて」の促音添加、「という」「というのは」の音変化などとして扱うこともある。また、形容詞、形容詞型助動詞の連用形につく「って」は、接続助詞「」の変化したもので、とは異なる。

って(ッテ)とは - コトバンク

 

確定するのには時間がかかりましたが、結果だけ見ると明快ですね。

 

つまり

 

大迫(は)半端ない

 

だけだと、事実を述べている文章になってしまいます。それはそれでため息交じりに言えば感服や諦念といった感情は表現できるかもしれませんが、例の映像の彼が心の底から悔しがっているあの感情で口にするには少しズレがある気がしますね。

 

そこで気持ちの主張を意味する「って」を付加します。

 

大迫半端ないって!

 

これであの状況に完全に合致した最適な表現になります。あんな心理状況でも完璧に日本語を使いこなし、キラーフレーズとでも言うべきこの言葉を作り出したことに、むしろ感心してしまいますね。

 

ちなみに、他にも次のような使い方が考えられます。

 

〈大迫半端ないって構文〉

そんなんわかってるって
この目で見たんだって
これおいしいって! 一回食べてみなよ!

 

こうやって並べてみると、「〜って言ってるだろ!?」というような再確認を「って」という終助詞ひとつで付加しているようにも見えます。

 

 

それもそのはずで、終助詞の「って」は、伝聞の意味にも使われます。たとえば、

 

あいつ、部活やめるって(言ってた)よ

 

というようなタイトルの物語がありましたね。

 

このとき、「って」が直接つけられた文章は、ほかの誰かが言ったことです。

つまり、部活をやめるのは「話者」ではなくて「あいつ」です。

 

もしこの解釈で通したら、「大迫半端ないって」は違う意味になってしまいます。

 

大迫、半端ないって(言ってたよ)

 

大迫選手が言っていた言葉を真似た場面ではありませんから、この解釈は明らかに間違いですね。でも、同じ終助詞の「って」なので、文章単独ではこの二つを見分けることはできません。文脈で判断する区別にほかなりません。

 

この区別には、

①解釈のためにどこで文章を区切るのか

②「って」がついている文章を発言した人物が話者と一致しているか

の二つが重要です。

 

まずは①文章の区切りを考えてみましょう。実は、「大迫が『半端ない』と言った」なのか、「話者が『大迫半端ない』と言いいたい」なのかで解釈が大きく変わります。

今回は「話者が『大迫半端ない』と言いたい」という状況ですね。

 

そこで②の話者との一致を確認しましょう。今回は「話者が」と書いてありますね。

したがって、「って」は話者の主張を意味する終助詞「って」と解釈するのが適切ということになります。

 

 

これだけで紛らわしい「って」ですが、他にも間違いはよく起こります。

 

会いたく恋しく泣きたくなる夜

会いたく会いたく震える

 

これらの「て」も、ときどき「って」と促音便のように発音されます。

 

だってわたし、嬉しくって

 

なんていうセリフはどこかで見たことがある気がします。

 

これらは終助詞ではなく、接続助詞の「て」です。

つまりは後ろに続きがあって、それに順接するために用いられています。

 

会いたくて→泣きたくなる

会いたくて→震える

嬉しくって→涙が出る

 

というように、原因などを説明しているときに「て」が使われます。

 

見分ける方法は案外簡単で、活用形を見ましょう。すべて「〜くて」という形になっていますね。

 

形容詞・形容動詞の連用形に「て」を付け足すとき、これは接続助詞の「て」で、原因などを示しています。

 

 

……他にも「て」について解説したら山ほど解説することがありそうです。

 

でも今日はこの辺にしておきましょう。

 

 

いやぁほんと、「って」って奥深いって!